ポスバン(Posuban) – ガーナ、沿岸部

建築案内

 ガーナ(Ghana)の沿岸部を旅していると、奇妙な像の建つコンクリート作りの建築物を見ることがある。別に人形師のアトリエなどではなく、誰かがふざけて置いてみたわけでもない。これはポスバン(Posuban)と言い、アサフォ(Asafo)と呼ばれる結社の集会場である。

 アサフォとはケープコースト(Cape Coast)を中心にガーナ沿岸部に住むアカン系の民族であるファンテ(Fante)人による軍事結社であり、アカン語の「サ=戦争」と「フォ=戦士」に由来する。アサフォの役割は何といっても一族や村を守ることにあったが、同時に地方政治においても重要な役割を担っていた。そしてアサフォの活動の本部だったのがポスバンであり、武器などの倉庫としても使用されたのだ。実際にポスバンはアカン語で「ポス=場所」と「バン=要塞」を組み合わせたものであり、「要塞化された場所」を意味している。しかしそんなアサフォもすでに軍事的な役目を終え、現在ではファンテ人たちの宗教や民族的な儀式を行うものとして存続している。 

 ポスバンの特徴は何といっても建物の周りに飾られた統一感皆無な人形や装飾群であろう。これらはこの地域でヴォドゥン(Vodun)と呼ばれる多神教の民間信仰がもととなったものと思われる。またアサフォにはそれぞれに固有のシンボルがあるらしく、それらも表しているようである。建物外観については色が派手なことを除けばこれといった特徴のないセメント建築であるが、内部には儀式用の祭壇があるらしい。そして機能の点から祭壇と集会所の一体型と、祭壇単体型の2種類に大きく分けることができる。

 それでは以下私が見てきた中からいくつかを写真でご覧いただきたい。


<アパム(Apam)>

 アパムのポスバンは私が実際に見た中では最も大きなものであり、一体型のタイプである。
 1階正面入り口には大砲が、またその両隣には兵士が配置されており、ここがかつて軍事結社の建物であったことを今に伝えている。両端階段にはチーター(?)が配置されており、偶然なのかもしれないが阿吽となっている。とはいえなぜ亀をくわえているのか。
 2階はキリストを中央に配置し、それを挟む形で左右それぞれに人物と天使を配置している。ここ以外でもキリスト教に関係した像を見かけたが、それには2つの理由が考えられる。1つ目はガーナがかつてイギリスの植民地であり、その間の布教活動が影響したというもの。2つ目はヴォドゥンが奴隷と共に中南米へと広まり、そこでその地の民間信仰やキリスト教などと混ざり合って現在のヴードゥー教へと変容したことである。それが奴隷解放後のアフリカへの帰国者と共に逆輸入されたと考えられる。


<エルミナ(Elmina)>

 エルミナには知っているだけで4つのポスバンが存在し、すべて一体型である。

 黄色い「No.1 Ankobeafo」の人形は小さく、またあまり面白いものはない。1階には左右にライオン像と、真ん中になぜか「南京錠」がある。2階には瓶のようなものが3体あり、屋上には鶏がある。
 なおNo.1の面する交差点のはす向かいもポスバンだと周囲の人々が言っていたが、本当かどうかは不明である。ただしここにも牛やアフリカ人の人形はあったのでその可能性は高いのではないだろうか。

 青い「No.2 Akyemfo」の人形も特に奇妙なものはない。1階はアフリカ人が4体と左右に飛行機がある。2階には何もなく、屋上に鷲(鷹?)がある。

 ピンクな「No.4 Wombirfo」の人形は数も多く、意味不明っぷりもなかなかのもの。1階の塀の上には不敵なツラをした謎の動物がおり、正面には多くのアフリカ人に加えて2本の柱にもそれぞれ顔が描かれている。また入り口にはアダムとイブ、屋上には板割りをしているようにしか見えない人物像があるなど謎は尽きない。

 なおNo.3は誰に聞いても知らないとのことであった。

 緑色の「No.5 Abese」は私が見た中で一番インパクトの強いものである。屋上に帆船を大胆に配置しており、その両脇に立つセーラーマンが白人であることから宗主国であったイギリスの海軍と考えて良いのではないだろうか。またポスバン正面にも数多くの人物像が配置されており、それに交じって奇妙な樹に鼻を巻き付けた象がいるなど見所十分である。また建物脇には制作途中の人形が無造作に放置されていた。


<ケープコースト(Cape Coast)>

 今まで見てきたアパムとエルミナのポスバンはすべて一体型であったが、ケープコーストで見た3か所はすべて祭壇単体型であった。このタイプには人形が存在しないため、一体型と比べてインパクトに欠ける点は否めない。ただしNo.5と呼ばれるポスバンは外壁に軍人や五首の竜などの装飾があり、周りには亀の甲羅が置かれていた。


 このように人形や装飾それぞれの意味は分からずとも見るだけでも十分に楽しめるポスバンであるが、訪れるにあたって注意してほしいことがある。それは勝手にポスバンの写真を撮るのはトラブルの元、ということである。ポスバンの近くには必ずそのアサフォ関係者がぶらぶらしているので、面倒でも撮影許可を得てから行いたい。また場合によっては金銭を求められることもあるので、支払うかどうかは各自で判断してほしい。

 ポスバンの人形は頻繁に増減したり新たに塗装されて全くの別物になっていたりするため、私の撮った写真と同じものを見ることはもう不可能かもしれない。しかしそれは見方を変えれば行く都度違うものになっている可能性が高いので、繰り返し楽しむことができるともいえる。皆さんもその一期一会を楽しみ、自分だけのポスバン・ストーリーを紡いでみてほしい。


<参考文献>

Fitzpatrick, Mary他 (2002) Lonely Planet West Africa, 5th edition, Lonely Planet Publications
Exploring Africa(英語)

<現地訪問>

アパム 2008/7/17-18
ケープコースト 2008/7/18-21
エルミナ 2008/7/19

 

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